仙台高等裁判所 昭和37年(ナ)2号 判決 1963年3月28日
原告 三見優一
被告 青森県選挙管理委員会委員長
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「昭和三七年七月一日に行われた参議院(地方選出)議員青森県選挙区の選挙は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
(一) 原告は昭和三七年七月一日に行われた参議院(地方選出)議員青森県選挙区の選挙における選挙人である。
(二) 右選挙は選挙人の選挙権を著しく差別したものであるから無効である。すなわち
(1) およそ選挙権は国民が日本国憲法前文、一一条、一四条、一五条、一九条、四四条によつて付与された侵すことのできない基本的人権の一つであつて、選挙権はこれを投票権と代表選出権とに大別して観念しうるのであるが、国家、法律は、そのいずれに関しても形式的にも実質的にも差別することは許されない。
(2) 原告は憲法前文、一一条、一三条、一四条一項によつて保障された平等権を有する。選挙権についても平等権が妥当する。
(3) 原告はまた憲法前文、一一条、九七条、一三条によつて保障された個人尊重権を有する。
個人尊重権は政治道徳の法則が個人を対等の関係に立たしめたことにより、また個人の人格の尊厳を個人の生存に欠くべからざるものとしたことにより、すべての国民が有する基本的人権の中核をなすものである。
参政権、とりわけ選挙権は右個人尊重権に基礎をおくものであるから国家は故なくこれを侵してはならない。
(4) しかるに前記参議院議員青森県選挙区の選挙は公職選挙法(以下公選法と略称する)一四条別表第二に準拠して執行された結果同県選挙区の改選議員一人当たり人口を、他の選挙区のそれと差別し、もつて原告の有する右平等権、個人尊重権、選挙権(とりわけ代表選出権)を侵害した。
それ故かような選挙は前記憲法前文および条章に違反し、無効である。
(三) 以下に右(二)の(4)点について詳述する。
(1) 公選法一四条別表第二によると青森県選挙区における議員定数は二人であるから、今次選挙においてその半数の一人を選出することとされたのである。
右選挙当時の同選挙区の有権者数は七九六七一五人であるから選挙人七九六七一五人で一人の議員を選出することとなり、同選挙区の代表選出権は一〇〇〇〇〇〇につき一、二五五一の割合であつて全選挙区中一四番目に小さい値である。他方東京都選挙区は改選議員数四人、有権者数五九二二一〇〇人であるから改選議員一人当たりの有権者数は一四八〇五二五人となり、これによれば都内有権者の代表選出権は一〇〇〇〇〇〇につき〇、六七五四の割合となり、全選挙区中の最低である。
また鳥取県選挙区の場合は改選議員数は一人、有権者数三六二一八二人であるから、代表選出権は一〇〇〇〇〇〇につき二、七六一となり、全国最高位である。
そうであるから青森県選挙区の有権者の代表選出権を標準にとり、これを一とすれば東京都選挙区有権者のそれは〇、五三八、鳥取県選挙区有権者のそれは二、一九九となり、青森に比し、東京は約半分、鳥取は約二、二倍の価値を有することとなる。
青森県選挙区の有権者数は前記のとおりであるが、それによつて改選議員一人を選出したものであるから、本来他の選挙区でも同数の有権者から一人の議員を選出さるべきが原則である。故に東京都の場合四人の改選議員を選出するためには前記青森県の有権者数の四倍である三一八六八六〇人の有権者で選出しうるはずであるから、東京都のじ余の有権者は全く代表選出権を無視されたことになる。神奈川、兵庫の各選挙区についても同様のことがいえる。
これとは逆に鳥取県選挙区の場合は青森県の場合に比し、四三四五三三人も少い有権者数三六二一八二人で一人の議員を選出しうるのであるから、それだけ代表選出権を重複代行又は他区の有権者の権利を侵害しているものといわなければならない。山形、栃木の諸選挙区についても類似の関係をみることができる。
かようにして今次の参議院(地方選出)議員選挙において原告を含む青森県選挙区の有権者は代表選出権を差別された。
(2) このようにして多数党は一党独裁の計画を進行せしめているのである。
我が国においては保守党は農村地帯県において強いとされている。されば保守多数党は保守勢力の強い北海道、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、長野、岡山、広島、熊本、鹿児島(以上改選議員数各二名以上)富山、石川、福井、山梨、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、島根、徳島、香川、高知、佐賀、大分、宮城(以上改選議員数各一名)に対してはそれぞれより多くの議員定数を割り当て(例えば定数〇、七名なるべき場合一名として繰上げ配当するが如き)かつ選挙の度ごとに確実に多数の当選者を獲得し、前記のように不合理な別表第二の改正を怠り、かくして原告の支持する政党の如きは他の政党より支持者が多いのに拘らず当選は極めて困難である。
このようにして行われた選挙は公正でない。
(3) 前記のような差別取扱の結果改選議員一人当たり有権者数の多いところ程候補者をして多額の選挙費用の費消を余儀なくせしめるものであるからこの点からしても公正な選挙ではない。
(4) 以上公選法一四条別表第二は憲法に違反するものであるから無効であり、議員の定数は選挙区ごとの有権者数に厳密に比例して定めるべきである。もし有権者数に比例することが不合理であるとすれば当該選挙期日の人口に比例して割り当てるべきものと考える。しかしながらかりにそのこともなお不可能とすれば近年にかぎり全選挙区の改選議員総数をもつて選挙当日の有権者数を除してえられる数字から上下一ないし二パーセントまでの相違はなおこれを許容するも止むをえないものと考える。
(5) なお憲法四六条は三年ごとに議員の半数を改選するものと定めているが右は必ずしも選挙区ごとの半数と解すべきでなく、地方選出議員総数の半数と解すべきである。
(6) 公選法別表第二には同別表第一末尾の「本表はこの法律施行の日から五年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によつて更正するを例とする」ごとき明文はないが別表第一と同様人口比例の適用があるものと解すべきである。
以上のとおり陳述し、
被告の本案前の抗弁に対し、いわゆる高度の政治問題という概念は法律的にも法律学的にも末だ確立された概念ではない。
今次選挙が準拠した現行公選法別表第二は憲法に違反し、人権を無視するものであるから、かかる選挙が自由で公正なものか、民主主義的なものであるか否かを判定することは正に司法権の任務でなければならない、と反論した。
(証拠省略)
被告訴訟代理人は本案前の申立として訴却下の判決を求め、抗弁として、原告は公選法の定める参議院議員定数の配分が違憲であることを前提として昭和三七年七月一日執行の青森県選挙区参議院(地方選出)議員選挙の無効確認を求めるのであるが、国会議員の選挙区別定数を如何ように配分するかは高度の政治性を有する問題であるから司法的判断に適しない。すなわち選挙区制度が政治問題であることは明らかなところ、選挙区別定数もこれと不即不離の関係にあつて、ともに慎重な政治的考慮によつて解決すべき問題で、前者を離れて後者のみを解決しうるところではない。例えば衆議院議員の選挙区別定数の問題についてみても、現在定数再配分の問題と選挙区制度(小選挙区制)の問題とが論議されているが、選挙区制度の改正に先立ち定数問題のみを解決することは小選挙区制の問題に少なからぬ影響のあるのを否定しえない。したがつてこのような場合司法権が定数問題について判断を下すことは選挙区制度の問題に影響を与えることを否定しえず、結果的には高度の政治問題たる選挙区制度の運命を左右することとなろう。司法権はこのような問題に関与すべきではない。
のみならず選挙区別定数の再配分問題はそれ自身高度の政治問題であつて司法的判断に適しない。選挙区の定数を変更することは議員および選挙人に重大な影響をもたらし極めて重大な政治問題である。特に定数を減少される選挙区では死活の問題であるから、しれつな斗争が展開されるので強い政治的勢力のもとでなければ徒らに混乱を招くのみで容易に解決しうるものではない。
このような政治問題の解決は世論もしくは立法機関ないし行政機関による解決に任せるのが適当であつて、司法権の介入すべきものではないと考える。と述べ
本案につき主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実は認める。(二)(三)の主張は争う。
(一) 原告は本訴において原告の参政権の平等性が侵害されたことを理由に本件選挙の無効確認を求めるのであつて、選挙管理機関の選挙の管理執行が選挙の規定に違反する点があることを理由とするものではないから、主張自体理由がないものとして棄却を免れない。
すなわち選挙の効力に関する訴訟は民衆訴訟であつて本来選挙人は選挙の効力に関しては法律上利害関係を有しないのにかかわらず、法律の特別の定めによつてその効力に関し訴訟を提起する権能を認められているものである。したがつて選挙の効力に関しては公選法の定める手続にしたがつてのみ、これを争いうるものである。
しかるに公選法二〇五条一項においては「選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動をおよぼすおそれがある場合に限り」選挙は無効とされる旨規定されている。そして右にいう「選挙の規定に違反する」とは選挙管理機関の選挙の管理執行が選挙の管理執行に関する明文の規定に違反する場合もしくは明文の規定に違反しなくとも管理執行に重大なかしがある場合と解されており、いずれにしてもそのために選挙の自由公正が害される場合において始めて選挙は無効とされるのである。
本件においては青森県選挙管理委員会に右のような選挙に関する明文の規定違反も、選挙の管理執行に重大なかしのあつた事実がなく、したがつてまた原告においても本訴においてそのような事実の存在を主張していない。
よつて本件は公選法二〇五条により選挙を無効とすることのできない訴訟であるから原告の主張自体理由がない。
(二) 仮に(一)の主張が採用されないとしても
(1) 原告は参議院議員選挙については有権者数もしくは人口に比例して定数を定めるべきものと主張しているけれども憲法および法律上そのような規定は存しない。憲法には両議院議員定数については法律でこれを定める旨規定されている外特に規定はない。これを公選法による各種公職の選挙についてみるに
(イ) 参議院議員の選挙区および定数は全国区と地方区とに分け、地方区については同法の別表第二に規定されているとおり各都道府県を選挙区とされている。
(ロ) 衆議院議員については同法別表第一に規定されている、その別表第一末尾には「本表は、この法律施行の日から五年ごとに、直近に行われた国勢調査の結果によつて更正するのを例とする」と定めているが、右定めは文理上法規としての拘束力はないものと解されている。
(ハ) 都道府県議会議員の選挙区は郡市の区域によることとされている。郡市の区域の人口が当該都道府県の人口をその都道府県議会議員の定数をもつて除してえた数の半数に達しないときは必ず他の郡市の区域と合わせて一選挙区としなければならないし(強制合区)郡市の区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であつても議員一人当たりの人口未満の場合には、任意に他の郡市と合わせて一選挙区とすることもできる(任意合区)ものとされている(公選法一五条)。
(ニ) 大阪、名古屋、京都、横浜、神戸各市の議会の議員については区の区域を選挙区とする旨規定されている(公選法一五条)。
(ホ) その他の市町村については必要があるときは選挙区を設けることができる旨規定されている(前同条)。
(ヘ) 都道府県の強制合区および任意合区、市町村の選挙区の設定の場合には行政区画、衆議院議員の選挙区、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないと規定されている(同条六項)。
(ト) 地方公共団体の選挙区別定数は人口に比例して定めなければならない旨規定されている(同条七項)。
前記の如く国会議員の選挙区および選挙区別定数の原則についてはなんらの規定もない。また地方公共団体の議会の議員の選挙区別定数については人口比例の原則が定められているが、都道府県、指定都市については郡市、区を選挙区とすることから厳密な人口比例を行いえず、各選挙区の議員一人当たりの人口には当然差異を生ずることを免れない。市町村議会議員の場合にも厳密に人口に比例して分割することは地勢、交通、従来の部落区域の沿革等から不可能であり、各選挙区の議員一人当たり人口には差異を生ぜざるを得ない。
以上のようなわが法体系から国会議員に関しては人口比例の実定法は存在せず、また実定法を越えた法理としても人口比例の原則は存在しないものと解せられる。
(2) およそ議員は選挙区の代表ではなく、全国民を代表するものであるから、定数の不比例は住民の参政権に影響をおよぼすものではない。
(3) 定数の不比例は住民団もしくは選挙人団という一定の集団に関する抽象的、観念的概念にすぎず、個々の国民の具体かつ現実の権利とは関係がないので、そもそも法の下の平等の問題とはなりえない。
或る選挙区の議員一人当たりの人口が他の選挙区のそれに比して少ない場合でもその選挙区の有権者は他の選挙区の有権者と同様特定の一人の候補者に一票を投票しうるのであるから選挙人の現実かつ具体の権利としては量的にも質的にもなんらの差異もなく、不平等な取扱とはならない。あるいは住民団、選挙人団というグループとしてとらえ、他の住民団もしくは選挙人団との間に差異があり不平等であると考えるのかも知れないが、そうであるとしてもそれは一定の集団に対する抽象的観念的な問題であつて、個々の現実かつ具体の権利とは無関係のものであるから、このような抽象的、観念的な集団の立場の利、不利ということは、そもそも憲法の国民の法の下の平等の範ちゆうに入るものではない。人口一〇〇人で議員一人を選出する甲選挙区と、人口二〇〇人で議員一人を選出する乙選挙区があると仮定する。この場合乙選挙区の住民Bの権利もしくは資格は甲選挙区の住民Aのそれに比し二分の一であるとは考えられない。またAの権利は一〇〇分の一で、Bの権利は二〇〇分の一であるとするのは意味のないことである。けだしAもBも彼等が選挙人である場合に行使する権利は、ともに一人の候補者に対し一票を投ずることであつて現実かつ具体の権利としては全く差異はなく、またABとも彼の投票が候補者を当選させるために働く力はともに完全に一であつて、決して一以上でも一以下の力でもないからである。
右設例における甲乙両選挙区において候補者数、各候補者の力の強弱、投票率、有効投票率において同一であるとすれば乙選挙区の当選人の方が得票数において甲選挙区の当選人のそれに比し多いことは通常予想されるところであるが、さりとてこの場合、乙選挙区の当選人に投票した選挙人の投票の価値が甲選挙区の当選人に投票した選挙人の投票のそれに比し低いとは考えられない。
なお他の選挙区と比較して当選の難易を論ずるのはナンセンスである。立候補者の資格には住所の要件はないので、全国どの選挙区からでも立候補することができ、法の下の不平等の問題を生ずる余地がない。
(4) また選挙区別議員定数の決定は選挙区制度と不可分の関係があり、単に人口のみならず区域の大小、歴史的沿革、都道府県別定数の振合等諸般の事情を総合して合理的に定めるべき裁量行為であつて、憲法が法律をもつてこれを定めるべき旨規定しているのも、このような適宜の措置を期待するからに外ならない。したがつて裁量権の範囲の逸脱と認められる著しい不合理の存しない限り、単に人口に比例しないことの一事のみをもつて違法ということはできない。
(5) 参議院(地方選出)議員青森選挙区においては定数二名以外の定数配分はありえない。したがつて定数二名の前提で行われた選挙は常に適法である。
以上(1)ないし(5)の各理由により本件選挙の執行は憲法および公選法に違反するところがなく有効なものである。
(三) ちなみに現行公選法一四条別表第二の参議院(地方選出)議員選挙区別定数は次のようにして定められた昭和二二年法律一一号参議院議員選挙法の定数表を踏襲したものである。すなわち昭和二一年四月二六日現在の人口調査による全国総人口を参議院地方区議員総数一五〇人をもつて除してえた議員一人当たり人口四八七、四一七人で、都道府県ごとの人口を除してえた数値について、その整数位が奇数となつた場合は端数を切上(例えば右数値が七、一五六一である場合は八人に)偶数になつた場合は端数を切捨(例えば二、二三四六は二人に)の方法により算出したものである。
憲法四六条は参議院議員の三年ごとの半数改選を規定しているので各選挙区の配当定数は最低二名の偶数であることを要する。なおある県の前記数値が仮に二、〇以下である場合でも、その県を他の府県に合わせて一選挙区とする合区は府県制度を破壊するものであるから許されず、この点から厳密な人口比例は不可能なことである。
昭和三五年一〇月一日現在の国勢調査による人口にしたがつて仮に前記と同一の方法により議員配当数を求めるときは定数に変更を生ずる可能性があるのは七選挙区で、増減数は八名以内にすぎず、青森県選挙区の場合は定数に異同を生じない。
このような状況にある公選法別表第二は未だもつて全体として著しく不合理な定数配分ということはできないから、これをもつて裁量権の逸脱として違法があるものということはできない。
(四) 民主政治において議員定数の人口比例が要求されるのは一般的にみて、人口に比例して代表者を選出する方が、比例しない場合よりも民意をより正確に反映するゆえんであると考えられるからである。例えば都市部と農村部との利害、思想の対立が顕著であるような場合において、人口比例ならば同数の代表者であるべきところ、都市部に有利な定数の配分が行われるとすれば議決において概ね都市部が有利になり、農村部の利益が害される結果となる。しかるに我が国のように国土が狭く、全体的にこのような地域による対立の差が殆んどなく、まして選挙区ごとの利害、思想の対立のない現状においては、定数が人口に比例しないことにより、右の設例のように特に利益を侵害される選挙区域というものは生じない。(代表者は法律上は全国民を代表し、一定の地域を代表するものではないが、事実上の問題として地域による思想、利害の対立がある場合には、代表者は自己の選出地域の利害により支配を受けることのありうることを否定しうるものではない)
定数の人口比例の問題はこのように民意表現の公正確保の一措置と考えられるが、その民意とは個々の選挙人の意思ではなく、もつと広範囲で考えられるいわば世論ともいうべきものである。したがつて人口比例の問題はこの多数の意思が全般的にみて公正に代表されうるか否かの問題であつて、国民一人一人の意思が平等の割合で代表されうるかどうかの問題ではない。すなわちそれは個々の国民もしくは選挙人の価値又は投票の価値に直接連なる問題ではないのである。したがつて多少の人口の不比例はいまだいわゆる民意の公正な反映に欠けるところがあるとはいいえず、そのバランスが相当程度崩れた場合はじめて民意の公正な反映が阻害されることとなり、人口不比例が違法と断ぜられるにいたるものというべきである。
以上のとおり陳述した。
(証拠省略)
理由
(一) 本件訴の適否について
原告は本訴において公選法一四条別表第二所定の参議院(地方選出)議員の定数の割当は、国民の法の下における平等を侵す違憲のものであるから右別表第二にしたがつて行われた昭和三七年七月一日執行の青森県選挙区の選挙は無効であるとしてその無効確認を求めるところ、被告は右議員定数の定めは選挙区制の問題と不即不離の関係にあつて、その是非は高度の政治問題であるから司法的判断に適せず、それ故本件訴は不適法であると主張する。
よつて判断するに憲法八一条は司法権に対し一切の法律、命令、規則、処分が憲法に適合するか否かを判断する権限を認めながらも、三権分立制をとる憲法の建前上或る種の高度の政治性を有する国家行為の当否は主権者たる国民に対し、政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に、最終的には国民の政治的批判に委ねられているものと解すべく、司法権の敢えて介入すべきでない一の制約の存することを否定しえない。(昭和三五年六月八日最高裁大法廷判決参照)
しかし前記参議院議員の選挙区別定数の配分の公選法の規定が憲法に適合するか否かの問題が右にいわゆる高度の政治問題として司法的判断の対象外であるとの所論は当裁判所の採らないところである。
それ故本件訴は適法である。
(二) よつて本案につき判断する。
(1) 昭和三七年七月一日に参議院議員の通常選挙が行われたことは公知の事実であり、原告が青森県選挙区の選挙人であることは当事者間に争いがない。
(2) 原告の主張は要するに公選法一四条別表第二の地方選出議員の定数の配分は選挙区ごとの有権者数もしくは人口に比例しないものであるから憲法に違反し無効である、かかる無効の規定に準拠して執行した青森県選挙区の選挙は無効であるとして本訴請求をするものであるところ、被告は選挙の効力に関する訴訟は本来個人の権利に相関するところのない法の特に認めた民衆訴訟であつて、公選法二〇五条によると右訴訟は選挙管理機関の選挙の管理執行が選挙法の規定する選挙の管理執行の定めに違反した場合に限りこれを認められるものであるところ、原告は本件においてそのような選挙管理執行上の規定違反の事実を主張していないから主張自体理由のないものと主張する。
しかし、もし仮に原告の主張する如く現行公選法一四条別表第二の議員定数の定めが違憲であるとすれば、かかる無効な公選法の定める数の議員を選出するための選挙の執行は違法であることは明らかで、かかる選挙執行上のかしは単純な選挙規定違反よりも重大であつて、この意味で被告の主張するごとく原告が選挙規定違反の具体的事実を主張していないということにはならない。
(3) 成立に争いのない甲第一三号証の一および弁論の全趣旨によると昭和三七年七月一日当日の参議院(地方選出)議員の選挙区別有権者数は末尾別表のとおりであることが認められるから公選法一四条別表第二の議員定数配分は右有権者数に必ずしも比例していないことは明らかである。
原告は右のような有権者数に(仮に選挙ごとにこれを把握することが困難であるとすれば人口に)比例しない公選法別表第二の定めは憲法に違反し無効であると主張する。
しかし憲法は参議院議員選挙の選挙区、議員の定数は法律をもつて定めるべき旨を規定しているが(四三条、四七条)これをどのように定めるべきかまでは明定していないから、この点は立法府の裁量に任せられているものと解すべきで、これを原告の主張するように各選挙区ごとの選挙当時の有権者数ないしは人口に、厳密に比例するよう立法すべき旨憲法上覊束しているものと解すべき規定は存しない。
原告は右定数不比例の結果は原告の青森県において有する選挙権とりわけ代表選出権が鳥取県その他の選挙区の選挙人の有するそれとの比較において不利益に、逆に東京都その他の選挙区の選挙人の有するそれよりは有利に差別されたとなし、このことは憲法の保障する法の下における平等の原則に反するというのである。
しかし単純かつ機械的に或る選挙区と他の選挙区間の有権者数(ないし人口)に対する選出議員数の比率をくらべ、その相違を目しもつて法の下の平等の原則に反する選挙権の差別取扱であるとする原告の見解は、にわかに採用しがたく、仮になんらかの意味で差別であると言わざるをえないものとするもそれは憲法一四条が基本的人権一般について禁止する人種、信条、性別、社会的身分又は門地による差別にも、さらに具体的に選挙権に関して四四条に規定する人種、信条、性別、社会的身分、門地の外教育、財産又は収入のいかんによる差別、ないしは以上列挙の事由に準ずべき事由によつて差別しているわけではなく、次のような経緯によるものであることが認められる。すなわち成立に争いのない乙第一号証の一、二によると公選法一四条別表第二は参議院議員選挙法(昭和二二年法律一一号)所定の選挙区別定数をそのまま踏襲したもので、右参議院議員選挙法の右定数の算出は(イ)昭和二一年四月二六日現在の人口調査による人口を地方選出議員定数一五〇人で除してえた数を、各選挙区(都道府県)の人口で除し、(ロ)(イ)によつて算出された数値の整数位が、奇数となつた場合は端数を切り上げて偶数とし、偶数となつた場合は端数を切り捨てて偶数とし、これを議員配当数としたものであることが認められる。(いずれの選挙区の定数も偶数としたのは憲法四六条により参議院議員は三年ごとにその半数の議員を改選するものとされている関係からであることが窺われる。原告は憲法四六条の半数の議員とは選挙区ごとの半数と解すべきでないというが憲法がそこまで細かくきめていないことはそのとおりであるが、反対に選挙法で各選挙区ごとの半数の改選が行われるようにきめることも禁じてはいない)近年人口の大都市集中の傾向は公知のことでこのことからすれば昭和二一年四月当時の人口を基礎とした右議員定数の配分は再検討を加えることが望ましいものといえるとしても、末だもつて右定数の定めが違憲であるとはいえない。
原告の挙げる憲法前文その他の条章も右議員定数を有権者数ないしは人口に正比例すべきことを要請しているものと解すべき根拠とはならない。
それ故公選法一四条別表第二の規定は違憲であるとの原告の主張は理由がない。
(4) すでにして憲法違反の点がない以上原告主張の(三)(2)(3)点のごときは「選挙の規定に違反すること」(公選法二〇五条参照)に該当しないから選挙無効の事由とはならない。
以上の次第で原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 松村美佐男 飯沢源助 高井清次)
別表
昭和37年7月1日現在参議院議員(地方区)選挙区別有権者数
選挙区名
改選議員数
選挙区別有権者数
選挙区別改選議員一人当りの有権者数
東京
4
5,922,100
1,480,525
神奈川
2
2,328,850
1,164,425
大阪
3
3,434,262
1,144,754
宮城
1
1,002,433
1,002,433
岐阜
1
994,922
994,922
山口
1
954,134
954,134
長崎
1
941,411
941,411
三重
1
929,599
929,599
愛媛
1
883,912
883,912
愛知
3
2,558,661
852,887
岩手
1
837,856
837,856
静岡
2
1,644,098
822,049
兵庫
3
2,446,915
815,638.33
青森
1
796,715
796,715
山形
1
785,285
785,285
福岡
3
2,324,987
774,995.66
秋田
1
770,112
770,112
埼玉
2
1,485,916
742,958
新潟
2
1,445,673
722,836.5
大分
1
717,361
717,361
千葉
2
1,421,443
710,721.5
北海道
4
2,798,505
699,626.25
広島
2
1,364,789
682,394.5
京都
2
1,283,382
641,691
宮崎
1
638,144
638,144
和歌山
1
634,230
634,230
富山
1
630,648
630,648
長野
2
1,227,955
613,977.5
茨城
2
1,209,127
604,563.5
石川
1
602,243
602,243
香川
1
574,185
574,185
福島
2
1,112,157
556,078.5
鹿児島
2
1,114,321
549,841
高知
1
541,800
541,800
島根
1
532,185
532,185
滋賀
1
529,280
529,280
佐賀
1
527,960
527,960
熊本
2
1,054,211
527,105
岡山
2
1,048,252
524,126
徳島
1
508,436
508,436
奈良
1
494,943
494,943
群馬
2
946,430
473,215
福井
1
457,532
457,532
山梨
1
456,862
456,862
栃木
2
875,538
437,769
鳥取
1
362,182
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